白昼夢中遊行症

夢の話

ノート

あのことを考えると呼吸が激しくなり、動悸が生じるようになったのはいつからでしょうか。気がつくと檻の中。どこにも逃げられない。ぼくは目を閉じて蹲り、耳を塞いで、それでも聞こえてくる声をひどく恐れた。頭がいたい。吐き気がする。いつからここにいたのでしょう。どっちが現実なのでしょうか。ぼくはぼくを閉じ込めてここまで連れてきた。そしていつの間にかそのぼくはいなくなり、檻の中のぼくがひとり、ここにいる。誰かここから出してくれ。この檻を壊して。ぼくにはそんな力は残っていない。全部持って行って消えやがった。

誰か憎めば楽になる。誰を憎めばいいのだろう。いまここにあるこの状況もそうあるものとして存在しているから何も恨むことができない。誰も悪くない。ぼくも悪くない。行き場のない情動がぼくの肉体を締め上げる。つらい、いたい、どうにもならない。どうにかするちからも今はもう残っていない。生きることで精一杯。それ以外に何かすることはできない。こんなぼくを見て、みんな軽蔑するでしょう。ぼくもそうだったからわかります。でも実際にその状況に置かれてみると、何もできなくなる。体が重い。動けない。理性と感情の葛藤をここまで放置してきたのが失敗でした。ぼくは無意識に抑圧してきたこの情動に、すでに呑まれていたのです。この檻の中で泣き叫ぶこともできず、感情をなだめることもできずに膝を抱えています。その一方で、それを演技だとして、冷静に観察する目を向けている自分もいる。演じている私と、それを見ている私。ここは私的劇場。神経症患者の作り出す心象世界。ここは檻の中。

誰も悪くない。何も悪くない。そのことがぼくにとっては最悪の状況だった。

今思えば、夢で蛇の毒で死んでいく自分を見たのはこのことを示していたのかもしれない。

 
停滞する世界で

止まっている時間を動かすには、どうすればいい? 僕の時間は止まっていた。どこにも行けない無能感は、僕からどこかに生きたいという欲を奪っていった。いや、それは適切ではない。正しくは、そうするまでの情熱を奪っていった。そのなかで、ここから離れたいという願望は常に心のどこかに大事にしまっていた。だから電車の夢を見るのだ。しかし、見る夢は、どこかに行くのではなく、帰ってくる夢なのだ。どこかに消えてしまいたいと思えば、自分を無条件に包み込んでくれる家という居場所に帰りたいという。いつも、それが叶わないような気がして、慌てて夢から覚める。僕は自分の居場所の中にいることを確認すると、胸を撫で下ろす。しかしそこは本当に僕がいるべき家なのか。僕は帰ろうと踠いているのではないのか。ここから離れたいのではなく、本来の場所に帰りたがっているのではないか。どこにも行けないと感じるのは、もといたレールを見失い、それ無くしては、もはや何処へも行けないからではないか。停滞した時間を動かすには、帰るべき家を見つけなければならない。それまでは停滞した世界でどこへも行かずに、何の希望も、夢も道標も持たないでいることを、たとえ世界が許さなくても、僕自身が許してやる。

 
夢を見る黄昏時

うとうとしていた。ひさびさに見た夢はまたも不可解なものだった。わいせつな本が不法投棄されているところに、男の子2人と女の子1人で乗り込んでいった。そこは展望台のようなところで、梯子を使って上に登ると3畳ほどの人が生活できるような空間があり、そこに大量のわいせつ本があった。それを持って帰ろうという魂胆だった2人の少年。女の子は勝手についてきたのだが、そういうことに疎い少女は、男2人に目当ての本を取ってくるように頼まれるのであった。彼らは変なところで恥じらいを持ったようだった。

それとは別の場面、ショッピングモールにて。私は上階でうろうろしていたのだが、気づくと人気がなくなっていた。どういうことかと下に降りていくと、騒がしい。パレードのようなものをやっているようだった。その騒ぎの中へ入ってみるような気分ではなかったから、外から見て見たのだが、子供向けなだけでなく、何人かアーティストを起用していたようだった。とはいえ、いかにも売れないような風体であったが。特に興味を引くものがなかったから、帰ろうと思ったが、自転車がパンクしていた。修理に出して、家まで配送してもらおうと思った。というのも、遠出になぜか自転車、しかもママチャリを持ってきていたのだ。それをまた持って帰るのも面倒だと思ったのだ。それで押していると、後ろから私のことを謗る者の声がした。ああ、確かに私は根暗な人間だよ。だが、お前のように陰口をするようにはなりたくないな。そんな奴のほうがよっぽど陰気だ。

 
断想180709

タコ部屋みたいな(たぶん違う)所に入れられる夢を見た。というか、ホテルかどっかとも思えるんだけど、とにかく狭かった。狭いうえに、洗面台が付いていて、それが空間に突き出ていたので、さらに圧迫感がある。だいたい4畳の面積で、玄関なしの一足制。バス・トイレは共用だった。Wi-Fiも共用だからか不安定で、使えたものじゃなかった。鍵はおもちゃみたいなものだが、24時間警備員がいる。しかし、寝るところはどこだったのだろうか。土足だから布団を引くわけにもいかない。とにかく、俺はそんな部屋に入る夢を見た。入る際に友人と、入浴の合間に抜け出して飲みにいく約束を取り付けて。

そんな夢を見ていた。何かに気づいて目が覚めたと思ったら、時計は11時5分を示していた。とうに授業は始まっていて、逡巡ののち、出席するのを諦めた。こんな事ばかりだ。俺の人生、こんな事ばかりだ。こういった積み重ねで信頼を失墜させ、立て続けに、より身動きが取りづらい状況へと自分を落とし込んでしまうのだ。生きるにもその才能が必要だと思う。それは大半の人が持っているもので、俺にはないもので。それは必要な時に人を頼る事であったり、自分を世界の中心に位置付ける事であったり、夢を持ってそこへ向かって進んで行ける事であったり、仲間だとか、あとは、愛と勇気。そんな感じのあれこれが、俺には欠けていて、だから人並みにすら生きられないのだ。今もこうやって現実から逃げて、それを正当化するかのように、罪悪感に押しつぶされている風の文章を書いている。書いてはいるが、胸はあまり痛くならなくなった。もう俺は罪悪感に苛まれる資格さえ失ったというのか。閉塞感と劣等感の中で生きている。

 
夢の話

どこでその女に出会ったのか。いつのまにか家に招いていたその子は、天真爛漫で悪戯っぽく、一方で料理上手なところもあって、お酒好きで最近酒を控えているおれを巻き込んでくるような、そんな子だった。その子の酒の飲む勢いを見て、おれは買い出しに行ってくると言った。すると彼女は私も行くと言って、グラスに残ったビールを空にした。二人で外に出る。近くのコンビニへ向かう。彼女は少し酔ったみたいなふりをして、おれにしがみつく。おれはどうしていいのかわからず、その重さや体温を感じながらどきどきして、それがばれないように振る舞うが、多分バレバレなのだろう。でもそんなことは気にしない。彼女が公園を指差して、ちょっと休憩したいと言う。おれは分かったと応じる。公園のベンチに腰掛けた二人は、どうしたのか。その辺で目覚めたせいで続きがない。というか、この話も半分は後付けで、夢の中にいた女の子当人はもっといろんな魅力が詰め込まれていた気がする。夢は覚めるもので、忘れるのは仕方がない。でもおれは夢の中での出会いこそ大切にしていたいと思うのだ。醜い現実ではなく夢ならば、おれも人間をそれほど嫌わなくても済むから。

 
断想181220

幻光暦という暦の世界。太陽を失った人々は人工の光の下で、昼も夜もない生活をしていた。薄暗い街灯が灯る街をおれは歩いていた。とある資産家のビルを目指して。おれはその男のゲームの参加者の一人だった。ゲーム、互いに殺しあって生き残った者が勝利という、三文小説にありそうなゲーム。勝者は幾らかの金を手に入れることができる。そんなしけた賞金のために、命を奪い合うのだ。それほど人々は困窮していた。それに対して金持ちはみな退屈していた。