白昼夢中遊行症

2020年の200日めぐらい

今年*1もあと半分を切っているらしい。というのはもうすでに7月の初頭にも話したような気がする。今日はおれのところでは、たぶん今年初の真夏日で、いや、調べてみたらそうでもないらしいが、ともかく、夏かあ、とか思うような暑い日だった。

そんで、今年もあと半分を切っているらしい。とはいえ、「印象的だったエピソード」も「半年で読んだ本TOP10」も、「上半期の反省」も「下半期でしたいこと」も特にはない。

特にはなくても、ひねり出してみるとするなら、まず、「印象的だったエピソード」といえば、やはり今年は大学に行かなくてもよくなったということだろう。今やずっとこんなんだったんじゃなかったかと思えるくらいにこの形態になじんでしまっているが、これは今年はじまったことなのだ。流行病が知らぬ間に大騒ぎになっていて、そして知らぬ間に世間のあり方をがらっと変えた。その変化は大学にも及んで、当面は大学に来ないようにの当面が、今のところ半年に及んで、さらにいえば夏にまで及んで、おれは4回生のくせに単位をかなり取り残しているので夏期集中講義とやらも受けるのだが、これもまた、大部分がオンライン講義ということになるらしい。オンライン講義……おれには難しいことは分からんが、それでも、自分で体験したかぎりでは、こうした教育のあり方もありなんじゃないかと思うのだ。教員の負担がいかほどかは知らないが、いちいち大学にまで行かなくてすむのはいい。大学だけにとどまらず、こんなあり方が浸透していれば、不登校なんて問題にならなかったんじゃないのかとか、いじめなんかも生じないんじゃないのかとかも思う。連帯とか礼儀とか集団行動とか共同生活とか人間関係のあり方とか、そんなのは学校で勉強することでもねえだろう、とも思うわけだ。おれが学校で学んできたことはといえば、ばれない嘘のつきかたとか、それっぽい詭弁で相手を丸め込む方法とか、他人をいやな気持ちにさせるうまい方法とか、そんなのばかりで、こうしたことは生きる上で役には……いや、大いに役に立つ方法だな……こうした方法こそこの世界に適応して生きるために必要なことなのだろう。だからこうしたことを学ぶ場として学校というものがあって、そこに十何年も通ってちゃんとこの身に覚え込ませなければならないのだろう。しかし、それならば、おれは余計なことも学んでしまったのかもしれない。おれは、こうした生き方というのが道徳とやらにかなうものではないということもおんなじ場所で習ったからだ。嘘をつくのはいけません、相手を説き伏せるんじゃなくて、ちゃんと対等に話し合いましょう、人の嫌がることはしてはいけません、等々、こうしたことを、嘘のつきかたとか相手に「はい」と言わせる方法とか相手を泣かせたり怒らせたりして最終的には学校に来られなくする方法なんかを学ぶところとまったく同じ学び舎で教え込まれるのだ。そして、そこにいる子どもたちは、この世ではこうした矛盾を許容しなければ生きてはゆけないということを、この有様から学びとるのだ……となると、やっぱり学校は必要かもしれんな。

 

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「半年で読んだ本TOP10」か。おれの読んだ本はほとんどがたいした本じゃない。ましてや10冊もあげられるほど読んでいないのだが、まあ、何冊かあげてみるとしよう。

 

1. チャールズ・ブコウスキーブコウスキーの酔いどれ紀行』(中川五郎訳、ちくま文庫、2017)

酒が飲みたくなる本。おれはこれをワインを飲みながらだらだら読んでいた。

 

2. クリストファー・プリースト『魔法』(古沢嘉道訳、早川文庫、2005)

なんか知らんがあったので読んだ。前情報全くなしだったが、帯だか裏表紙に書いてあるあらすじだかの煽り文句によると作者が「騙り」の名手らしい。なので、警戒して読んでいたが、うん、これはちょっとあれだな。

 

3. レイモンド・カーヴァー『象』(村上春樹訳、中央公論新社、2008)

なんか知らんが今年はカーヴァーを全部読もうと思い立って読んでいた本。こうした本は一度読んで終わりという類いではないと思うので、面白いとか面白くなかったとかそういう判断を読んでただちに下せるものでもない。が、「メヌード」がなぜかやたらと印象深かった。

 

4. レオン・バッティスタ・アルベルティ『絵画論』(三輪福松訳、中央公論美術出版、2011)

おれは絵を描かない人間だが、絵描きなら読んだ方がいいんじゃないかと思った。アルベルティは万能の天才で、万能の天才といえばレオナルド・ダ・ヴィンチが有名だが、元祖・万能の天才というべき人物がこのアルベルティなんであって、レオナルド・ダ・ヴィンチを始めとするそのほかの「万能の天才」は多かれ少なかれ彼の影響下にある。そんなすごいひとの書いたありがたい書物だが、おれは絵を描かない人間だから、理論的なことはさっぱりだった。とはいえ、なるほど、たしかに教養に満ち満ちているのはわかる気がする。一般的な教訓を導き出せるような部分もある。が、おれは一度流して読んだだけで、それだけでは消化しきれなかった。

 

5. 飯田隆『新哲学対話』(筑摩書房、2017)

現代哲学とプラトンの対話篇のコラボというのか、現代哲学で議論されているトピックのいくつかを、対話篇に模して書いた本。おれはプラトンの対話篇をこの時点で読んだことがなく、今も読んだことはないのだが、家に積んでいる『国家(上)』(藤沢令夫訳、岩波文庫、1979)をパラパラと眺めてみると、まあ、雰囲気は再現されているんじゃないかと思う。対話ということで、なかなかサクサク読めたが、内容はかなり濃密なもので、ちゃんと読んだらそれはそれで読み甲斐がありそうだと思う。プラトンの著作そのものも読みたいんだが、なぜかいちばん分厚い『国家』を買ってしまったがために手をつけられないでいる。あと、一番最初のトピックの、価値と嗜好についての議論の部分では、やたらとワインが飲みたくなる。

 

6. レイモンド・カーヴァー『必要になったら電話をかけて』(村上春樹訳、中央公論新社、2008)

カーヴァーの本はだいたい短編集か詩集のどちらかで、詩集はまだ一つも読んでいないのでこれが短編集だということは分かるが、何が入っていたか全く覚えていない。本の返却期限に押されて急いで読んだのだろう。

 

7. 野矢茂樹『論理トレーニング101題』(産業図書、2001)

論理的な読解のための本だが、むしろ書くのに役立つ本だった。少なくとも、おれはこの本で読解というよりも書くことをより学んだと思う。そうはいっても、おれの文章はみなさんご存じのとおり、めちゃくちゃなものなのだが。

 

8. ジンメル『愛の断想・日々の断想』(清水幾太郎訳、岩波文庫、1980)

ジンメルの思索の断片の数々。断章のいいところは、短くまとまっているから頭の動かないときでもそれなりに読めるという点だろう。おれはジンメルのことを全く知らなかったのだが、今年の書物復権で『橋と扉』が復刊されていて、それを本屋で立ち読みしたところ、なかなか面白そうだったので興味を持った。そうはいっても、みすず書房(だったっけ? ……違った。白水社だった。恥ずかしい)から出ているお高い単行本をいきなり一冊買う勇気もなかったので、文庫で出ていたこれを買った。「断想」というタイトルになんだか縁を感じた、というのもある。

72

この世に処する最高の術は、妥協することなしに適応することである。絶えず妥協しながら、それで一向に適応に達しないのは、極めて不幸な素質である*2

128

酔って正気なのは見事だが、正気の人間が酔ったら手がつけられぬ*3

このあたりが気に入った。

 

9. 高橋源一郎『恋する原発』(河出文庫、2017)

おそらく今年のいままで*4読んだ本の中でもっともひどい本。そしておそらく、2020年におれが読んだ本の中でもいちばんひどい本ということになるだろう。しかし、こうしたひどい本を読んでいないとやっていられない、ということがある。

……

とまあ、こんなもんか。10冊もいかなかったね、残念。そもそもおれはこれらの本を読んだのだろか。高橋源一郎『恋する原発』は、読んだのが昨日だったので、読んだという実感がまだ残っているが、それ以外はメモを見返すまで、読んだということをすっかり忘れていたものばかりだ。というか、メモを見返していて、こいつら読んだの今年だったのかよ、という感想を抱くものもあった。まあ、「半年で読んだ本TOP10」はそんな感じです(ちなみに「TOP10」とか言ってるけど、ここではべつに序列をつけて並べたわけではなく、ただ読んだ順番に並べただけです)。

 

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さて次は「上半期の反省」か。強いていうなら、春休み前、昨年度の冬学期の期末レポートやらなんやらを全く書かずに単位をまるっとドブに捨てたことだろうか。おかげで、今年もこうして普通に授業を受けているのだ。しかし、反省というほどおれはその現実をいまだ直視していない。ただただ普通に今年も授業を受けている。おれは反省しない人間だし、それだから、同じ間違いを何度も繰り返す、進歩のない人間だ。

「下半期でしたいこと」……上半期をろくに反省していないおれが、下半期に何かをしたいなどと思いあがるのもどうだろうかと思うが、まあ、今年は大学の卒論を書かねばならないので、何よりもまずこいつに真っ向から取り組みたい、ということだろうか。しかし、こんなまともっぽいことを宣言してしまっていいのだろうか。

……なんだか日付が変わる前に書き上げなければならない気がしたので、「上半期の反省」と「下半期でしたいこと」はまたの機会になるかもしれん。それか、書かないかもしれん。何にせよ、今日はこれで以上、ということにしておこう。

今週のお題「2020年上半期」

*1:以下、「今年」は西暦2020年を指す。

*2:ジンメル『愛の断想・日々の断想』p. 86

*3:ジンメル『愛の断想・日々の断想』p. 118

*4:2020年7月18日までの時点。