白昼夢中遊行症

断想

2021/04/05

修理に出していたスマートフォンを取りに行く。その後、家に帰る前に街をぶらぶら歩き回る。古書店を見つける。入る。本の森に分け入り、置いてあるものを見てまわること半時間。挨拶代わりに3冊の本を選び、持っていく。三好達治『諷詠十二月』(潮文庫)、ツルゲーネフ『散文選』(岩波文庫)、石川達三『夜の鶴』(講談社文庫)。店主のおばあちゃんは、ラジオを鳴らしながら新聞を読んでいた。「すみません」と声をかける。「はい、はい」。個人でやっている古本屋の店主は、なぜかみんなおんなじ感じの声をしているよな、と思う。店主が、おれが支払うべき金額を言う。おれはそれを支払う。ぴったりではなかった、と思う。忘れてしまった。かばんを持っていたので、その必要はなかったのだが、ポリ袋に入れてくれた。袋はサービスらしい。あるいは、支払った代金に袋代も含まれていたのかもしれない。店主は袋の口を開くのに、いくらか苦戦する。そのあいだ、おれは周囲を見回す。なんと、ここにはいろいろな本がある! 「どうもありがとう」と店主。「ありがとうございます」。おれはそう言って、なおも、そこかしこををもの珍しげに見回しながら店を出ていった。というのも、そこにはたくさんの本があったのだ。

2021/04/09

ひと月だ。おれが5年間の大学生活を送った街を去ってから、ひと月がたった。それからの日々は、まるで川に浮かべた笹の船のように、スイスイと流れていってしまった。「カレンダーの消えた人生」、というのはこのようなものなのだろう、と思う。

2021/04/10

ここ最近、自分の文章をかけていない気がする。最近どころじゃない。いつからかわからんが、だいぶ前から、かけていない気がする。そんな気がするから、なにか、言葉が書かれようとしてひょっこり俺の前に顔を出してきたとしても、おれのほうは必死になっているもんだから、血走ったおれの目を見た言葉は恐れをなして、するりとおれの手をすり抜けて、どこかへ走り去ってしまう。そして当分、そいつはおれの前には姿を現さない。つい先ほども、おれは同じようにして掴みそこねてしまったところだ。帰ってこいよ、おれは怖くないよ。そんなことを言っても、戻ってきてくれはしないか。もうすこし、余裕を持ったほうがいい。そう思う。そうできたら、どんなにいいだろう。

今週のお題「下書き供養」