白昼夢中遊行症

断想

おれはいつでも過去に生きている。現在は苦しみそのものだし、未来もまた、まだ経験していない苦しみでしかないからだ。それに比べて、過去はもう過ぎたものだ。それが現在になんらかの影響を与えることはあっても、それそのものはもはやおれになんの危害も加えない。だから、おれはいつでももうすぎてしまった時間のことを考え、その時間に生きている。

だから、住みたい場所はどこか、と問われたなら、おれは過去に住んでいた場所を一番に思い浮かべる。もっとも、これからそこに住むつもりで思い浮かべるのではなく、かつて住んだ時間を再び生きるように。

おれは、学生として過ごした五年の月日の中に住みたい。その最後の一週間、それまでの苦悶の月日を振り返り、そこに生きていたように、またあの時間を繰り返していたい。おれは後ろ向きに生きていたい。

でも、そもそも時間に前と後ろがあるのは、人間の錯覚なんだっけ? いや、ビックバンが極めて特異だったから、そこが時間の基準点になっているとかなんとか、前に本で読んだぞ。ということは、前とか後ろとか言ってもいいってことか。まあ、なんだっていいや。人間にとっての未来を前、過去を後ろと例えていうなら、おれは後ろを向いて生きたい。おれは過去に生きていたい。

今週のお題「住みたい場所」