白昼夢中遊行症

断想

バイト終わり、携帯電話に不在着信。覚えのない番号。調べてみるとハローワーク。そういや、そんなのもあったな。

半年前に一度、登録に行ったっきりだ。登録時、新卒採用を狙う方針で、ということにした。持っている手札を使わない手はない、と案内の人に勧められたからだ。世の中にはエリクサーを使わない人間がいるというが、おれはそうではない。

しかし、新卒採用を狙うということは、自分が大学を卒業していることを押し出していかなければならないということだ。大学を卒業していることを強調するということは、そこで過ごした時間がいかに「御社」にとって有益であるかを売り込まなければならないということだ。しかし、大学生のころを思い返してみても、社会に役立ちそうなことは何一つなかった。

誤解を避けるために一応言い添えておくが、これは「一般的に言って大学生活で学んだことが社会の役に立つことはない」と言っているわけではない。あくまで個人の問題だ。おれの大学生活に関していえば、役に立ちそうなものは何も無いということだ。いや、おれの人生全体で見ても、やっぱり役に立ちそうなものは無い。どれほど頭を捻り絞り出そうとも、そんなものは出てこなかった。無いものは無いのだ。役立たずなのだ、おれは。

そんなことに気づいたのが、愚かにもハローワークに行った後だった。そこで「大学で何を学んだのか」とか「大学時代、打ち込んだことは何か」とか聞かれた後だった。そこで初めて、おれが無用な人間であることに気がついたのだ。

無用なおれが、何らかの用途を売り込もうなどと考えてはならない。無用なものを用のあるものとして売り込むのは詐欺だ。無用なものを無用なものとして売り込むのは時間の無駄だ。つまり、おれは就職活動をするべきではない。おれはそれ以来、就職活動をしようなんて思い上がったことを考えないことにした。もちろん、ハローワークにも行っていない。

自分の思い上がりに気付くのが遅かったせいで今日、ハローワークの職員に無駄な電話をかけさせてしまったわけだ。つまりそのぶん、時間を使わせてしまった。ハローワークは公的な機関だ、とそこの人は言っていた。つまり、おれは職員に無駄な時間を使わせることで、税金の無駄遣いをさせてしまったということだ。ごめんなさい。こんなおれがのうのうと生きていて、ごめんなさい。

生きているだけでおれは誰かから金を、時間を、命を奪っている。しかしながら、これは個人の問題ではない。個人の問題ではないからといって、許されるわけではないけれど。