白昼夢中遊行症

断想

真実を言うことほど、場を白けさせることはない。人はみんな、騒いでいたいものだから、だれも真実なんて言わなくなった。

わたしも、真実を言うことの満足よりも、つまらないやつだとみなされることによって被るであろう不利益のほうが大きいと思い、なにも言わなくなった。口を開くと、つい、ぽろっと溢してしまいそうになるからだ。わたしが正直者だと言いたいのではない。わたしはただ、不注意な人間なのだ。

わたしは、誰も真実など求めていない、ということを理解しているはずなのに、どうしてか、人と話すとき、その人が真実を欲しがっていると思い込んでしまうのだ。口に出してようやく、「間違えた」と気づく。そんな瞬間が何度もあった。そのたび、わたしは自分のそこでの立場をあやうくした。

わたしは、嘘をつくのには慣れっこだ。なかなかうまい嘘だって、つくことができる。そう思っている。だから、嘘をつけないわけでもないのだ。ただ、嘘と真実とを、ごっちゃにすることがよくある。間違えて本当のほうを言ってしまう。しかも、それとは気づくのは、もうどうしようもなく静まり返ってしまったあとだ。

わたし以外、誰もいなくなったとき、ようやくわたしはわたしの間違いに気づく。まったく、わたしは好きでやっているわけではないのに、みんなどこかへ行ってしまうのだ。

ま、ここには誰もいなかったのだけれど。