白昼夢中遊行症

2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

独白

「だって、踏み出せなかったんだ。いつもぼくは、踏み出せないでいるのだ。そうやって時が過ぎて、人々が過ぎていったんだ。こんなに寂しいことがあるもんか。彼は、彼女は、無二の友達になったかもしれない。……かもしれない。そうだ、ぼくが不確かでおぼつ…

書店にて

土曜日に、書店の岩波文庫の棚の前で長考していると、知らない人に話しかけられた。 本をどう選んでいいか、わからないという。なのでおれは、その手伝いをすることになった。手伝いといっても、おれには絶対にこれだといえる本を示すことはできない。だから…

なにも出来ない

仕事のある日は、自由な時間が1日に1時間もない。 朝、目が覚めたとしてもすぐには起きてくることができない。ダイニングに人がいなくなってから、ひっそりと起き上がる。だから、起きるのは出勤に間に合うぎりぎりの時間になる。 夜、帰ってから食事をして…

生きるのをさぼりたい。 週休二日の人生を送りたい。 食べるのも、起き上がるのも息をするのも面倒だ。 瞬きするのも、心臓を動かすのも神経伝達するのも面倒だ。 面倒だと思うことも、何もしたくないという気分でいるのも面倒だ。 週に二日くらい、すっかり…

日常が回復しているらしい

「日常が回復している」そんな言葉を何度か耳にした。冗談じゃない。この連休、何度か用事があって街に出たけれど、そこで見た人たちはみな非日常の足取りだった。もとより連休はいつだって非日常だ。そこで出歩く人たちを見て「日常が回復している」なんて…

断想

横断歩道で信号待ちをしているとき、向かいから信号無視をして渡ってくる歩行者がいれば、おれは必ずその人をじっと見つめる。 別にその視線に非難の意味を込めているわけではない。 ただ、「おれは見ているぞ」と、そう思いながら、じっと見つめる。 「おれ…