白昼夢中遊行症

断想

カラマーゾフの兄弟(中)(新潮文庫) (ドストエフスキー) - 位置No. 1535-1542のハイライト |作成日: 2021年11月19日金曜日 9:18:26

世界は自由を宣言し、最近は特にそれがいちじるしいが、彼らのその自由とやらの内にわれわれが見いだすものは何か。ただ、隷属と自殺だけではないか! なぜなら俗世は言う。「君らはさまざまな欲求を持っているのだから、それを充たすがよい。なぜなら君らも、高貴な裕福な人たちと同等の権利を持っているからだ。欲求を充たすことを恐れるな、むしろそれを増大させるがよい」──これが俗世の現代の教えである。この中に彼らは自由を見いだしているのだ。だが、欲求増大のこんな権利から、どんな結果が生ずるだろうか? 富める者にあっては孤独と精神的自殺、貧しい者には妬みと殺人にほかならない。それというのも、権利は与えられたものの、欲求を充たす手段はまだ示されていないからだ。

Kindle Paperwhite には、マーカーを引いた部分をクリップしてひとつのテキストファイルにまとめる機能があるらしく、今までマーカーを引いていたらしい部分の抜き書きが記録されていた。

PCで充電するついでに中身を眺めていたら、そんなテキストファイルが見つかった。

そのとき、何を思ってマーカーを引いたのか、わからないようなものばかりだが、こうした抜き書きを読むのは少し楽しい。前後の文脈は全くわからない。電子書籍なので、それをみに行くのも面倒だ。だから、その文章だけをじっくりと読むしかない。

さて、このカラマーゾフの兄弟からの抜粋だが、なんだろうな、これは100年前に書かれたものなのだが、全くもって今の時代にもそのまま当てはまる内容で、少し恐ろしくなるな。人類はずっと足踏みしている。

いや、少し違うか。欲求を増大させそれを満たさんとすることの自由がもたらすものについて、「富める者にあっては孤独と精神的自殺、貧しい者には妬みと殺人にほかならない」とあるが、実際には富めるものには充足が、貧しい者は妬みと殺人と孤独と自殺がもたらされる。そんな世界になっているのではないか?

最近、岩波ジュニア文庫の『砂糖の世界史』という本を読んだが、そこでも、どうも世界は歪になっている、てなことがあとがきあたりに書いてあったよな。たしか、そんなことが。あるいは『13歳からの地政学』という本でも、同じようなことが言われていた。

富める者は貧しい者から富を吸い上げる。貧しい者が上がってこられないように、力を削ぐことも忘れない。そうして、金のなる木を維持し続けていれば、富める者は絶えず欲求を満たし続けることができる。金があれば手段はいくらでもある。充足があるから、搾取の手を緩めることはない。

そんなことを考えてみたけど、これはただの空想だ。なんの裏付けも論理立てもない。

バカヤロー、と叫べば少しは気分が晴れるだろう。そういうことをやっているだけ。

こんな悪い世界ではないはずだ。おそらく。少なくとも100年前と同じように、富める者にも貧しい者にも、それなりの苦しみがあるはずだ。

その方がまだ、ましな世界観だろう。
そう思っておけ。