白昼夢中遊行症

音と声

うまく馴染むことのできない飲み会の席で、部屋の隅でその時間が終わるのを待つみたいに、おれは世界の隅っこで膝抱え小さく丸こまって、この世界が終わるのをじっと待っている。

どうしても眠れず、どうしても眠れないなんて考えているとますます眠れず、ましてやそんなことを呟いているともっと眠れず、眠れないと喉が渇き、やたらと空腹感を覚えるけれど、空腹を満たすというのはなんだか虚しい気がしていて、おれは食べるのが好きにもかかわらず、食べるのが嫌いでもある。

枕の向こうでPCのハードディスクが回転して、小さくカリカリと音を立てている。もっと向こうで、新聞配達か何かの原付の音が、いや、止まる音がしないから新聞配達ではないのだろうか、ともかくも原付が走る音が聞こえる。雨が降りつ上がりつ、ポツポツザラザラジャラジャラしている。

眠れない眠れない、おれが眠れないとしきりにいうのは、おれには口に出したことを後付けで嘘にする習性があって、眠れないということもこれを口にすることで嘘にしたいというわけなのだが、おれは口に出したことを後付けで嘘にするという習性を口にしてしまったがために、これを嘘にしないではいられないので、結局おれは眠れないのだ。

雨音。少し雨がきつくなる。一つ一つの音の間隙が狭くなって、無数の点が線になるように、音と音とがつながって、リズムが旋律になる。

だんだんと外が明るくなってくる。喉の渇きを覚える。目は冴えたままで、身体は熱っている。

こんなことならもっとやりようがあったのでは、と思う。遠くで原付が止まる。

雨が少し強くなる。音が厚くなる。単調なメロディ、不規則なリズム。どこか遠くで車のアイドリング音。

冷蔵庫から微かに聞こえる音。そういえば、大学受験の前日は、ホテルの冷蔵庫の音がとにかくうるさくて眠れなかった。

明るくなってきた。相変わらず眠れず、雨は少し弱くなって、不規則なリズムを奏でる。

心地よい孤独。居酒屋での時間とは違って、おれは心を開いていられる。

人間に対しては心を閉ざし、世界に対しては開くこと。

原付が戻ってくる。雨だからか、ブレーキ音が高い。新聞配達だろうか。

雨が強まる。ドビュッシー「雨の庭」。

ところでおれはドビュッシーの曲の中ではどうしてか、ベルガマスク組曲第2曲「メヌエット」をもっとも好む。

眠りたい。鳥の声。美しくはない鳴き声。

目は冴えている。依然として冴えている。しかし眠りに落ちるときにはいきなり意識がなくなるものだ。

そろそろ眠れるような気がする。しかし、そう言った以上は眠れない。

おれは眠りと覚醒の狭間を漂っている。

冷蔵庫が鳴きだした。