白昼夢中遊行症

断想

もし明日、死ぬとしても、おれの人生に思い残すことなんて一つもないし、後悔なんて何もない。ハードディスクと蔵書の一部、それと日記を処分させてもらえれば言うことなしだ。もちろん、そうさせてもらえなくとも構わない。遺されたものから、残された人たちがおれについてどのような感情を抱こうとも、もう知ったことではないのだから。守るべきイメージ、なんてものは持ち合わせていない。そんな、薄っぺらで実のない人生だ。そんな命だ。たぶん、売り払ったとて明日の飯代にもなりやしない。

痛いのは嫌だし、苦しいのも、ひもじいのも、みじめなのも、面倒なのも嫌だ。嫌なことばっか数えていたら、何もかもが嫌になった。だからこんな人生なんだ、とは言わない。いずれにせよ、こんな人生。

好きなものは何か、と聞かれてもおれは答えられないし、答えたとしても言葉に詰まって嘘くさくなる。まあ、実際嘘なんだから仕方ない。アルバイトの面接で、尊敬する人はだれか、と聞かれたときも、そんなものはいない、と答えてしまった。明らかに不採用にする理由になる答えだ。でもまあ、それがなくともその質問が来たときには、その他の色々の受け答えから、自分が不採用になるということをほとんど確信していたから、投げやりになっていた、のかもしれない。いずれにせよだめだったんだ。なにもかもが。「応募が殺到しているから、合否は後日連絡します」という、落とす時の決まり文句を言ってうやむやにしてその場を終わらせる採用担当の人。その場ではっきり言ってくれた方が助かるんだけどな。話は早い方が助かる。こんなところで後になって難癖つけようとするから駄目なんだ。おっしゃる通りです、まったくもって。好きでこうなったつもりはないんだけどな、まったく。

しかしまあ、こんなおれがなんで生きてんだ。もっと生きたかった人間はたくさんいるはずなのに。才能に恵まれていて、生きていればこの世の中をちょっとばかし良くしていけるような人は、ごまんといたはずだ。なぜそういう奴じゃなくて、よりによってこのおれに、まあまあ健康な身体と、生きるのに困らない程度の経済状況の家庭と、目に見えて最悪というほどではない家庭環境が与えられたのか。これでも喉から手が出るほど、欲しがる人はいるだろう。だからどうって話でもないが。いや、ほんとに、どうでもいいなこんな話。でも、こんなことばっか考えているんだ、最近は。まったく、どうしようもない。どうしようもないことについて考える時間があったら、もっとどうしようもあることについて頭を使えよ、馬鹿野郎。ごもっとも。これからどうなるんだろうな、おれ。