白昼夢中遊行症

断想

ここ数日の雨続きで、すっかり桜の花は落ちてしまった。だけどその代わりに若い緑の葉がつきはじめて、まだ黄味がかったその色は、まだ少しだけ残っている桜の花とともに青空を背景にして、にぎやかな色合いでぼくの大学までの道のりを飾りつける。

大学の講義が始まってから二週目。今はなんとか通えている。まだ一週間しか経っていないからだが、それほど忙しくもないから、なんとか通えている。大学の近くに美味しいカレー店を見つけたので、そのために大学まで行こう、という動機付けができるのも良い。毎日そこに食べに行くなんていう贅沢はできないが、大学へ行きたくないという考えが頭をよぎったときのような、いざという場合には有用だ。

このごろは大学よりもバイトが苦痛でならない。バイト先では、仕事が楽しくてどうしようもないというふうを装っている。いや、仕事に関しては苦痛ではない。しかし、卒業で今まで上に立っていた人間がごっそり抜けて、仕事場にいる、いままでうるさい奴だったのが、ますますうるさい奴になった。それがうっとおしくてたまらん。そいつは自分の要望が叶えば、他の奴のことなどどうでもいい、なんてタイプの人間だ。さらに言えば、自分が人に指図したり、自分の能力を誇示するためであれば、整合性を気にしないような人間だ。つまり、自分のことを棚に上げてでも人の上に立ちたがるような人間だ。仕事のできる人が何人もいたときはまだおとなしかったのだが、その人たちが卒業してから、目障りでたまらなくなるほどに図に乗るようになった。

おれはといえば、まあ褒められた人間でもないが、それでも他人よりも自分がまずどうにかするという方向でまずアプローチするタイプで、くだんのうるさい奴に関しても最大限の譲歩をしてきたつもりだ。しかし自分の認識を変えるといっても限界がある。ならば自分がとるべき道は、そのバイト先から退くことだ。せっかく精神的に安定してきたというのに、またくだらん奴にかかわったストレスで不調をきたすわけにはいかない。もうすでに一年は棒に振ったのだ。半年ぶんの学費も。

しかしそうはいっても、すぐにそこをやめようというわけにはいかない。おれには収入源が必要だし、考えや準備なしに感情のまま動いては、物事はスムーズに進まない。まずは、新しい働き口を探すことだ。交渉を有利に、かつスムーズに進めるにはイニシアチブをとらなくてはならない。いまのバイト先にのみ収入源を依存していては、そこを突かれて丸め込まれる。そうだ、金だ。バイト先の人間関係にとくに未練はないし、仲のいい人間とはそのような組織のつながりがなくとも交流は続くのだから、おれの弱みというのはそれくらいだ。収入源さえどうにかしてしまえば、おれはだいぶ立場的には優位に立てる。というのも、自分で言うのも変な話だが、いまのバイト先にとって自分の存在というのはだいぶ大きいのだ。おれがいなければ、そこの職場環境はけっこう悪化する。人手が足りないうえに、ベテランはさらに少数だ。その中でもおれはいちばん仕事ができる。あえてそう断言しておく。

仕事ができるのなら、そこをやめて新しいところでまた一から始める、というのはもったいないことだと言われるかもしれないが、おれは新しいことでもわりにはやく要領を掴める方だという自負があるので、かえって新しいことを覚えることへの楽しみというのが、いままで覚えてきたことを捨て去るというマイナス面に勝っている。

というわけで、いまは新しい働き口を探している。できれば違う業種のものを。手が荒れないものを。そして服に生ごみの匂いがつかないものを。