白昼夢中遊行症

断想

二週間ほど前、自宅から50メートルも離れていないところが燃えた。そこにあった家は全焼し、中にいた人が一人死んだ。このとき見に来ていた人たちは、マスクをつけていなかった。しかし、それが何だというのか。後からこのできごとについて、報道やSNSの口コミをまとめて取り上げた上で、「このご時世ですし、それでなくとも危ないので、火事だからといってむやみに見に行くのはやめましょう」なんていっているやつがいたが、そんなのはインターネットを介してでしかこのできごとを知らない野次馬だったから言えることだ。野次馬から見れば、たとえ当事者であっても野次馬に見えるものだ。実際に周りに集まっていた人はほとんどが近所に住む人たちで、火事においては、その現場の近くに住む人はみんな、否応なく当事者なのだ。そして、火事の当事者でいるというのに、どうして外出自粛を決め込むことができようか。どうしてマスクひとつに神経質にならなくてはならないのだろうか。少なくとも、このときに限っていえば、ウイルスよりも火事が差し迫った脅威であったし、それが収まるのを見届けるまでは、ウイルスのことなど気にしていられなかった。マスクをつけずに出て行ったおれは非難されなければならないのだろうか。おなじように、気が気じゃなくなって様子を見に出てきた近所の人たち、燃える家から避難してきた人たち、彼らのほとんどがマスクをつけていなかったが、そのことについてあれこれと非難されなければならないのだろうか。おれには分からなかったし、いまも分からない。

お題「#おうち時間