白昼夢中遊行症

ひさしぶりに本を買った

死にたくなったら、本を買うといい。それほど長くない、長編小説を一冊買うといい。静かな、美しい本を買うといい。どこへでも持っていけるような、小さくて軽い文庫本がいい。それを読むも読まぬも自由だけれど、とにかくそれを持っておくと良い。それが私やあなたを生に繋ぎとめるのだ、とは言わない。それはむしろ、冥土の土産というやつなのかもしれない。とまれかくまれ寂しいものだ。生きるも死ぬも、寂しいものだ。その孤独にふさわしい、一冊の本を餞とするがいい。

なんて思いながら、昨日一冊の本を買った。およそ半年ぶりくらいに書店へ行って。ここ数日、何かあったわけでもないけれど、死んでしまいたいという思いが再燃している。ぼんやりとそう思うだけで、実際に死ぬことは、今回もないだろう。それは油断かもしれないけれど、私には覚悟というものが足りていない。なので、積極的なことは何もしないだろう。

とはいえ死にたい。それが一番いいはずだ。という思いは間違いない。わたしはなにくそと思うことのない人間だ。生きていられなくなったら、死ぬのだろう。その覚悟がないから、なるべくそうならないように立ち回り、その度に死にたいと思うけれど、あえてそうしない限り死ぬことはない状況が続くだろう。そのために、わたしは生き続け、このなんとも言えない苦しみも、私の生とともに持続するのだろう。

しかし、本を買った。なんの役にも立たない本を買った。なんの役にも立たない人間にふさわしい。なんの気晴らしにもなりはしない。しかし、それでも本を買った。金に余裕はないけれど、買った。わたしの命じるままに、わたしは本を買った。それがわたしをこの生に繋ぎとめるのではないのに。そんなことしなくたって、わたしは生き続けるのだというのに。とにかく一冊の本を買った。