白昼夢中遊行症

断想

仰向けになりながら、キーボードで文字を入力したい。ひとりで暮らしていたとき、それをしていたのだが、あれほど至福のときはなかったと思う。卒業論文の一部分も、そうやって書かれた。卒業論文を書くことは、わたしの書くという体験の中で、もっともつらいものだった。仰向けになって書いた部分は、たぶんその中でもまだ、ましだった部分になるだろう。とにかく、仰向けになって書くことはすばらしい。ものを書く姿勢の中で、もっとも身体的なつらさが少ないものだと思う。そのときは、キーボードを腹の上に乗っけてタイピングしていたが、キーボードを両脇にひとつづつ配置すれば、もっと素晴らしいことになるだろう。腕までリラックスした状態で、動いているのは指先と脳みそ、あと、時たま目を使って出力された文字を見るくらい。何かのSF小説かなにかで、考えるだけで文字が記録されていくなにかを、みんな脳に埋め込んでいて、クラウドに繋いでそうして書かれた文章を共有しているみたいな、そんななにか、SFみたいな小説かなにかを読んだ覚えがある。そんなのがあれば、より素晴らしいように思うけれど、人類はもうじき終わるだろうし、まだ終わらないにしても、そんなのが実現するまえに、私が先にくたばるだろう。しかし、仰向けに寝て、キーボードで文字を打つのは、実現しうる理想だ。いや、かつて実現していた理想だ。スマホなりタブレットなり、なんらかの画面を頭上に安定させることさえできれば、だれでもできるから、まあ、試してみるといい。……試してみたけど、そんなによくなかった? ま、そんな人もいるだろう。仕方ない。試すも試さぬも勝手だ。試して失敗したと思っても、そこまで面倒は見られない。仕方ないことだ。わたし自身、いざやってみたらそんなによくないかもしれんからな。