白昼夢中遊行症

断想

6月26日。今年はじめて室温が30度を上回り、たまらず近くの大型商業施設へ避難した。例年ならば、この時期からは一日のほとんどの時間を大学の図書館か、大型商業施設の休憩スペースないしどこかの店で過ごすようにしている。おれは掃除を等閑にしがちな人間で、この下宿に越してきて以来、一度もエアコンを掃除していない。そのせいで、さすがにそのまま使うことがためらわれるまでに、エアコンのフィルターは埃を溜め込み、送風口にはカビのようなものが見られるようになった。しかしそうなってもなお、全く掃除する気が湧かないのであり、おれはエアコンを使わずに過ごす方を選ぶのである。というか、エアコンの掃除をすること自体はやる気がないわけでもないが、そのための掃除用具を買い揃えるのが面倒なのだ。掃除機を買う金はない。ここは最低限、バケツと雑巾さえあればいい。というか、バケツと雑巾さえあれば大抵の場所の掃除が可能なのだが、それらを買いに行くのがどうしても面倒なのだ。だから、おれの部屋はエアコンに限らず、全体的に埃っぽい。物は少なく、整理されているにもかかわらず、清潔感が感じられない。

例年ならば、この暑い季節には、おれは大学の図書館か近くの大型商業施設に避難する。しかし今年は、大学に行くことが少なく、図書館で涼むためだけにわざわざそこまで出向くのも億劫だ。そのうえ、授業がないおかげで、図書館が短縮営業で長居できない。大型商業施設はこの感染症騒ぎのおかげで、なんとなく長時間滞在するのが憚られる。というわけで、おれは今年、夏の暑さをどうにか回避するために、どう振る舞ったものか考えあぐねている。

今日は久しぶりにスターバックスへ行った。ここ最近は流行病の影響で足が遠のいていたのだが、久々に立ち寄ろうと考えたのは、昨年避暑地として(あるいはバイト前の時間つぶしに)足繁く通っていたときに貯まったスターの有効期限が切れそうなのに気がつき、もったいないから使っておこうというけちな根性がはたらいたからである。いつもならばラテしか飲まないのだが、おれは貧乏性なので、高いものを頼んだ方がお得というときには、高めのものを頼むことにしている。Reward eTicketは税抜き700円までのものを1品注文できるので、たいていの場合は期間限定の商品をオーダーすれば満額近く使い切ることができる。ラテにこだわってもいいが、ラテで700円を使い切るとすればヴェンティ・サイズ(460円)にカスタムを上乗せしなければならない。おれはコーヒーが甘いことを許容できない器の小さな人間なので、甘くなる類いのカスタムはできない。となると、4ショットか5ショット追加するしかないが、そんなとち狂ったオーダーをする勇気はない。それに、もしヴェンティ・サイズに5ショット追加すれば、エスプレッソの量は240ml。およそ全体の4割がエスプレッソということになる。ここまでやったラテがおいしいかどうか疑わしいし、コーヒーが酸化して味が損なわれる前に飲みきる自信もない。だからおれは冒険はせず穏当に期間限定のものを頼むのだ。

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順番が来て、なんだか赤いやつを受け取る。

今の期間限定のものといえば、ゴロッと イチゴ フラペチーノ®である。もう一つ何かあったらしいが、そいつのことをおれは知らない。おれの行った店では売り切れていたので、知っていたとしても頼むことはできない。おれはゴロッと イチゴ フラペチーノ®を注文する。ソーシャル・ディスタンスを保つようにしてバーカウンターへの列に並ばされる。おれの行くスタバには赤いランプはない。順番が来て、なんだか赤いやつを受け取る。専用のストローでお飲みくださいと言われるので、言われるがままに渡された専用のストローを突き刺して飲む。飲むというより、直径10mmほどあるストローを通って上がってくるイチゴの果肉を食べる。冷たい。酸っぱい。甘い。店の中は空調が効いているために、冷たいものを食べるのはしんどい。テラス席に行けばよかったと思う。返却期限の迫りつつあるレイモンド・カーヴァーの『頼むから静かにしてくれ Ⅰ』(村上春樹訳、中央公論新社、2006)をひらいてパラパラと目を通す。長居するのは気が引けるために、あまり集中できず、さっさと飲みきってしまって店を出た。

 

 

今週のお題「私の好きなアイス」